最近、ハリネズミの診察を希望する
飼い主の方が増えてきました。
ハリネズミは、診察時に殆ど丸まってしまい、
ちょっとした検査でも、困難になります。
ハリネズミのお腹が赤くただれて、痒がっている
という主訴で、Y市からの来院がありました。
症例: ハリネズミ 3歳、 オス BW442g サタン
診察台に乗せて、体重を測るために
皮手袋でそっと持ち上げると、独特の「シュー」という声を出して
丸まってしまいました。
その後は、飼い主のSさんがなだめても声をかけても
丸く固まったままです。
お腹の皮膚炎を調べるのに、お腹を診ることができないと
ただ、呆然と手をこまねいているだけです。
そこで、安全性のある吸入麻酔をかけて、
しっかり調べることをSさんに提案しました。
少しだけ、考えたSさん、「麻酔をかけて、お願いします。」と
承諾してくれました。
麻酔BOXで、イソフルレン麻酔薬を流すと
数分後、麻酔状態に入りました。
マスクに切り替えて、
お腹を診るために仰向けにすると、
皮膚は全域で赤く炎症を起こしています。
後ろ足の付け根は、糜爛して
膿皮症を引き起こしていました。
痒みがあるようで、
舐めて表皮が剥がれ、爛れが
重度になっている部分もありました。
この皮膚に対して
① 外部寄生虫検査
② 皮膚真菌検査(ダーマキット)
③ 細菌培養検査
を実施しました。
外部寄生虫検査・・・陰性
皮膚真菌検査・・・ダーマキット陽性
細菌培養検査・・・staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)3+
という結果が出ました。
そこで、
皮膚真菌症に対して、イトラコナゾール
ブドウ球菌に対しては オフロキサシン
を内服してもらうことにしました。
2週間後のSさんのお話は
痒みが治まってきて、
お腹の爛れと赤みが改善してきた
とのことでした。
今回は、透明のプラスチックケースに
入れて、腹部の皮膚の様子を
観察することができました。
腹部の赤みは初診時より、
改善が見られます。
膿皮症は治癒していました。
今回のケースでは
皮膚糸状菌の感染と二次的黄色ブドウ球菌
の感染が合併したものと思われました。
実は、このような感染症が起こりやすい
ベースに、栄養、免疫低下、環境アレルゲンなどが潜んで
いることもあります。
また、内分泌異常も関与する可能性もあります。
残念ながら、このような基礎疾患の確定診断は
困難なことから、
対症治療で対応することが現状です。
さて、ハリネズミの代表的皮膚疾患を下記に
示しますので、参考にしてください。
ハリネズミの皮膚疾患
ハリネズミの体表の背側には被毛が変化した針がみられ、脇腹から腹側にかけては柔らかく細い被毛が生えている。針は総数で約5000本といわれ、約2~3cmの長さである。針は自在に可動し、逆立てるとさまざまな角度に立って互いの重なりあって支え合い、砦のようになる。一般的に、ハリネズミには皮膚糸状菌症とダニの寄生が好発する。これ以外にも、細菌感染、アレルギー、代謝性脱毛、腫瘍等もみられる。針が容易に抜けるので、皮膚疾患は早期に発見される。
皮膚糸状菌症
本菌はハリネズミに常在しているとも考えられており、ヒゼンダニとの併発症例が多く、ダニ寄生等の皮膚免疫能の低下が発症に関与していると思われる。
原因はTrichophyton crinacci等の感染による。本菌は通常は病原菌とは考えられておらず、ヒゼンダニとの関連が考えられる。
症状は、皮疹は体幹背側に発生し、フケ等がみられ、針が脱落する。慢性の症例では皮膚の肥厚、角化がみられる。糸状菌の単独感染ではカユミはあまりない。
診断は、落屑から培養検査を行う。治療は、グリセオフルビン等の抗真菌剤の投与を行う。可能なら抗真菌剤の薬用シャンプー等で薬浴を行うとよいダニの寄生がみられる症例には、ダニに対する処置も必要となる。
外部寄生虫症
ハリネズミには外部寄生虫が好発する。一般的に皮疹や針の脱落等がみられ、鑑別は容易である。
マダニ症
野生個体に好発し、飼育下での発生はまれである。マダニは飽血(吸血して体長が数十倍の大きさになること)すると、脱皮もしくは産卵のため体表から離れる。
症状は、体幹脇腹や耳介の後方が好発部位である。重症例では、貧血、発熱、皮膚炎等がみられる。
診断は、視診で皮膚上のダニの検出を行う。特に飽血したダニは明瞭である。治療は、刺し口が残らないようにダニを物理的に除去する。または殺ダニ剤の外用を行う。
ヒゼンダニ症
皮膚糸状菌症と併発する症例が多く、相互に症状を助長させている。ヒゼンダニは皮膚に穿孔をつくって生活している。
症状は、軽症例では無症状のこともあるが、皮疹として、鱗屑、落屑、痂皮、ソウ痒等がみられる。重症例では大量の落屑がみられ、針が脱落する。この落屑によってヒトにアレルギー反応が現れることもある。
診断は、皮膚の掻爬検査で成体や卵を検出する。治療は、イベルメクチンの7~10日間隔の連続投与を行う。または殺ダニ剤の外用も有効である。
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