イングリッシュ・セッターが散歩中に急にお腹が大きくなり

苦しみ出したと、来院しました。

 

症例: イングリッシュ・セッター  メス  12歳9ヶ月齢  レナ

 

レナはこの日の午前中、いつもの軟便の主訴で来院し、

お薬を渡して帰宅した後、お水をがぶ飲みしたそうです。

その後の散歩でした。

 

 

レナは2年前にも胃捻転を起こしました。

この時は他県に住んでいて、他院にて緊急手術を行い、助かりました。

 

このことがあり、

飼い主のTさんからは、様子を見ないで直ぐに電話連絡があり、

午後一番に、来院してくれました。

 

一見して、

腹部が膀満しています。 打診によりガスの充満がわかります。

レナはよだれを垂らし、歩きはしますが辛そうです。

吐きたそうな仕草をするも、吐けないとのことでした。

 

レントゲン検査、血液検査を実施しました。

 

血液検査:  正常範囲内

 

 

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レントゲン検査:

 

胃内はガスで充満し、

本来、右側に見える幽門部が左側(写真でいうと右側)

に移動しています。

捻転の典型的所見です。

 

 

胃捻転は、一刻を争う病気です。

直ぐにでも、捻転を戻し、

再発しないよう、胃固定術をする必要が

あります。

 

Tさんは、2回目のこともあり、

直ぐに理解し、緊急開腹手術を承諾してくれました。

 

発見が早かったことで、発症からの時間はまだ短いので

救命できる可能性は充分あります。

 

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ミタゾラム、ベトルファールで鎮静(前処置)をし、

プロポフォールで麻酔導入しました。

手術部位である腹部の毛刈り、剃毛も素早く行いました。

 

 

 

 

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開腹する前に、胃内のガスを抜く為に

胃カテーテルを胃内に挿入しました。

捻転が強い場合は 、噴門からの挿入が困難です。

噴門部でやや抵抗がありましたが、

何とか挿入出来ました。

その直後、ガスが抜けて

腹部の膨れは改善されました。

 

 

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過去の開腹手術の跡が腹部中央に

残っています。

 

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腹壁を開けると、胃が見えました。

発見が早かったことがあり

胃壁の損傷は殆どありません。

また、口腔からの胃カテーテルでガスを

抜いたことで、捻転は元の位置に戻った

ようでした。

対応が早いとガスを抜くことで、

このように自然に戻ることも

あります。

 

 

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胃内にはまだ、飲んだ水がかなりの量、

残っているので、

カテーテルを通して、吸引、排液しました。

 

 

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胃を固定する方法として、

肋骨の間を切開をし、

ここから胃壁を引っ張り上げて、

ここに縫合します。

切開部からバブコップ鉗子を挿入し

胃壁をつかんでくるところです。

 

 

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引っ張り出した胃壁を癒合しやすいように

少し傷をつけて、腹壁の筋層に何か所も

結節縫合します。

 

 

   

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固定された胃を腹腔内から

見たところです。

これで、胃の捻転を予防します。

 

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腹腔を閉じる前に

サクションを使って、腹腔内を洗浄しました。

 

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腹壁を縫合したところです。

 

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皮膚を縫合し、手術は

無事に終了しました。

 

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手術中に、心電図を継続して

モニターしましたが、

心配した不整脈は出ませんでした。

 

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術後は、入院室内で

点滴を続けました。

 

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2日目のレナです。

食欲も出てきて、

回復は順調でした。

 

今回は何よりも発症から処置までの時間が

早かったのが、幸いしました。

飼い主のTさんが、胃捻転の経験があり、

直ぐにおかしいと、来院したことです。

また、昼間に起こったこともラッキーでした。

スタッフの人数も充分で、

スムーズに一連の治療処置が実施できたことです。

 

胃捻転の死亡率は50%近くにも及ぶ

ことが報告されています。

発見と処置が遅れれば、この数字は更に高まります。

経験的にも

発見時にはすでに手遅れだったケースを

何度も味わっています。

 

特に、胸の深い中型から大型の犬は

要注意です。