皮膚に黒色の腫瘍が発生した2羽のウサギの治療を経験しました。

同じ様な形態の腫瘍でしたが、この2羽の予後が大きく違いました。

 

症例1: ロップイヤー(白黒)  避妊メス  7歳  BW2.25kg  トロ

     主訴・・・3ヶ月前に耳の先端に黒い腫瘤ができた。 徐々に大きくなってきた。

           本人は気にしていない。

 

症例2: ネザーランドドワーフ(グレー)  オス  8歳8カ月 BW1.6kg  ブー

      主訴・・・1ヶ月前に右肩に黒い腫瘤ができた。徐々に大きくなってきた。

 

症例1、症例2とも相談の結果、切除手術を行いました。

 

 

症例1: トロ

 

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トロは白黒の模様をしたロップイヤー腫でいわゆるパンダうさぎです。

食欲、元気ありで一般状態は良好でした。

手術前の血液検査での数値もほぼ正常範囲内でした。

 

 

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右耳の辺縁にできた腫瘤です。

黒い毛の部分にできた腫瘤で、黒色の

ドーム状の腫瘤です。

 

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腫瘤の周囲の血管は

正常に比べ拡張し、豊富に発達(腫瘤の栄養血管?)

しています。

 

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手術は腫瘤周囲の耳介を切開し

切除することとしました。

 

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出血をコントロールする目的で

腸鉗子で耳介周囲を鉗圧しました。

 

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外科鋏で一気に切り離し、切除されました。

 

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切開部は吸収性縫合糸(オペポリックス)で細かいピッチで

連続縫合を行いました。

 

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手術が終わって覚醒を待つ間のトロちゃんです。

覚醒は順調でした。

 

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切除腫瘤です。

真っ黒な腫瘤でメラニン色素が豊富な

腫瘤と考えられました。

犬や猫ではこのような外観の腫瘤はメラノーマを

疑います。

しかし、ウサギでのメラノーマの記載は資料としてあまりありません。

 

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病院で作成したスタンプ標本では

細胞内に3つの核を有する異型細胞がみられました。

また黒色の大小様々なメラニン顆粒?が豊富に存在しています。

 

 

切除腫瘤は組織診断の為に病理検査センターに送り、

結果を待つことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症例2: ブー

 

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ブーちゃんは8歳8カ月、

全身麻酔の心配を飼主のYさんはとても

心配しましたが、術前にレントゲン、血液検査を行い

異常が見られなかったので手術に踏み切りました。

 

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症例1と同様、毛色に近い濃灰色で

ドーム状の腫瘤です。

FNAでは単核の軽度大小不同のある

細胞塊が採取されました。

 

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手術は常法どおりに

腫瘤周囲の正常皮膚を切開し、

摘出します。

 

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この腫瘤の周囲は

症例1にように豊富な栄養血管は

見られず、出血も殆どなく摘出できました。

 

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切除された腫瘤です。

 

 

ブーちゃんは

高齢にも拘らず、覚醒も順調でした。

 この腫瘤も組織病理検査を実施しました。

 

さて、外観、大きさの良く似ている両者の結果はどうだったのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

症例1の結果:

       診断 :  悪性黒色腫

       所見・・・腫瘤表層には広範に潰瘍化ないし痂皮形成を認める。その直下から深部組織にかけて、浸潤性に増大する境界不明瞭な腫瘍性病変が認められる。(ただし、耳介軟骨の破壊は伴わない。)腫瘍巣では、重度の異型性及び多形性を示す非上皮性腫瘍細胞が束状、指紋状、花むしろ状および敷石状に増殖する。

腫瘍細胞の大半は細胞質内にメラニン色素顆粒を豊富に有するが、一部では同顆粒に乏しい。また、核は大小不同の楕円形~類円形を呈し、数個の明瞭な小型核小体を入れる。核分裂像は散見される。腫瘍巣周囲にはリンパ球が軽度に浸潤する。標本上、腫瘍の明らかな脈管内進展像は認められず、マージンは確保されている。

コメント・・・メラニン色素賛成細胞に由来する悪性腫瘍です。比較的文化度は高く、今回の手術で撮り切れているように見えますが、再発、転移には十分注意してください。

 

症例2の結果:

       診断:  毛芽腫(もうがしゅ)

       所見・・・真皮において、非浸潤性に増大する境界明瞭な腫瘍性病変が認められる。腫瘍巣では、基底細胞に類似する上皮性腫瘍細胞が、索状、乳頭状およびリボン状に増殖する。間質には軽度の線維増生を伴う。同腫瘍細胞の異型度は低く、核分裂像も少ない。標本上、腫瘍内進展像は認められず、マージンは十分にj確保されている。

コメント・・・毛芽に由来する良性腫瘍と判断されます。腫瘍は撮り切れているようですので、予後は良好でしょう。

 

症例1のトロちゃんはやはりメラノーマ(悪性黒色腫)でした。

ウサギのメラノーマについて、文献を調べたかぎり誌上報告は見当たりませんが

臨床現場では比較的良くみられる事が判りました。(当院では初めてでしたが)

再発、転移率は高く、予後は要注意、または不良とのことでした。(犬に類似?)

 

 

トロちゃんのその後・・・

1ヶ月後の検診で肺転移を確認しました。

また、身体の数か所に同様な腫瘤の転移も認められました。

 

 

 

 

 

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肺野には、び慢性に無数の砲弾上の転移像が

見られました。

 

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転移像は左右の肺に拡がっていました。

 

 

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身体を触診してみると、

何か所に黒色の転移したと思われる腫瘍が

確認されました。

 

 

検診後は制癌作用を期待して、姫マツタケ

リキッドを飲んでもらうことにしました。

しかし、3週間後には呼吸が辛そうになり、

下半身が動かなくなりました。

その後、4日ほどして自宅で息を引き取りました。

[トロちゃんのご冥福を心よりお祈りいたします。]

 

毛芽腫だったブーちゃんは

数日後には抜糸をする予定です。

現在、とても元気にしています。

 

同様の腫瘍にも思える2羽のウサギの皮膚腫瘍でしたが

悪性度によって予後は大きく変わってしまいます。

 

今回のトロちゃんのケースでの経験は非常に勉強にもなりました。

学んだ知識と経験を今後のウサギの診療に

少しでも役立たせたいと思っています。