急性に排便、排尿困難を起こし、虚脱したシーズー犬が来院しました。

肛門周囲が重度に膨大していました。

両側の会陰部がヘルニアを起こしていて

ヘルニア内容は反転した膀胱と直腸でした。

 

症例: シーズー  12歳  去勢オス  BW6・4Kg  レオ

 

 

れお01.jpg

 

れお02.jpg

 

肛門周囲の会陰部が両側とも重度に膨大しています。

強い怒積(いきみ)の為に肛門は脱出しかけています。

左側の膨らみは、膀胱がこの部分に反転脱出しているためです。

右側には拡張した直腸内に宿糞が多量に溜っています。

 

れおx2.jpg

 

レントゲンでは骨盤骨の尾側に脱出した膀胱と糞塊が重なって確認されました。

 

血液検査では軽度のBUN(38)とクレアチニン(2.1)、白血球(20100)の上昇が見られた以外は

正常範囲で脱出してからそれ程時間が経っていないと思われました。

 

膀胱脱出した会陰ヘルニアは緊急疾患です。

まず、拡張した左側会陰部を穿刺して、反転した膀胱から50cc排尿しました。

 

この時点の治療プランとして

2段階の外科手術を予定しました。

1段階・・・開腹し、膀胱を整復。

      再脱出しないよう、前立腺部を腹壁に縫合、合わせて腹腔精菅も腹壁に

      縫合する。

      直腸拡張が進行しないよう、下行結腸を頭側に引っ張って腹壁に縫合する。

 

2段階・・・後日、体力の回復を待ってから両側会陰ヘルニアの整復手術を実施する。

 

 

れお04.jpg

 

脱出膀胱から穿刺排尿したことで膀胱圧が減少し、

ペニスからカテーテル排尿が可能になりました。

緊急開腹手術前に排尿しています。出血尿です。

 

 

れお06.jpg

 

陰茎部の左側皮膚を切開しました。

 

れお07.jpg

 

腹壁を切開し腹腔内が露出しました。

ガスで膨らんだ結腸がすぐ見えましたが、

膀胱は見当たりません。

れお09.jpg

 

助手に左側会陰部を指で腹腔側に向けて押し込んでもらうと

反転した膀胱が腹腔内に戻ってきました。

膀胱壁は出血と充血を伴った激しい膀胱炎を起こしていました。

 

 

れお014.jpg

 

膀胱の反転を防ぐため、精菅を腹壁に数ヵ所縫合します。

 

れお015.jpg

 

左右の精菅を腹壁に縫合し終わりました。

 

れお016.jpg

 

次に結腸の脱出を防ぐため、

下行結腸も左腹壁に縫合します。

 

 

 

 

れお018.jpg

 

最後に前立腺の位置も腹壁に縫合して固定します。(これも膀胱反転防止)

 

これで、ヘルニア内に臓器が反転する予防処置が完了しました。

 

 

 

 

れお010.jpg

 

腹腔内を十分洗浄した後、腹壁を縫合します。

 

れお012.jpg

 

皮下織、皮膚も縫合し、第1段階の手術が終了しました。

 

 

 

れお020.jpg 

 

7日目、一般状態が回復したところで、

膀胱脱出があった左側と直腸拡張がある右側の両側会陰ヘルニアの整復手術を実施しました。

本来は片側づつ2回に分けて手術しますが、

今回は第1段階の開腹手術があったことと、両側とも重度で早急に整復したい理由から

両側を一度に手術することとしました。

 

まず、膀胱脱出が起こった左側から始めました。

 

 

れお021.jpg

 

皮膚を切開すると、ヘルニア嚢が確認されます。

 

れお022.jpg

 

ヘルニア嚢を開けると、ヘルニア孔が見えてきました。

 

れお025.jpg

 

ヘルニア孔には脂肪組織が存在し、骨盤隔膜との癒着が見られます。

膀胱はこの脂肪組織と共に脱出したのです。

 

れお026.jpg

 

癒着を剥がしながら、引っ張るとずるずる出てきます。

 

れお027.jpg

 

癒着を剥がし隔膜と分離し、出てきた脂肪組織の全容です。

この脂肪組織は切除しました。

 

れお023.jpg

 

坐骨の背側に付着する内閉鎖筋を骨膜と共にできるだけ多く剥離し

ヘルニア孔を閉鎖する弁(壁)として利用します。

内閉鎖筋は仙結節靭帯と肛門挙筋に縫合します。

 

れお024.jpg

 

ヘルニア孔をしっかり閉鎖するためには

内閉鎖筋を多めに剥離するのがコツです。

仙結節靭帯と尾骨筋も縫い合わせ、閉鎖が完了しました。

 

 

れお028.jpg

 

左側の皮下織、皮膚を縫合、

次に右側へのアプローチです。

 

れお029.jpg

 

右側のヘルニア孔に対しても同様の処置をしていきます。

 

れお030.jpg

 

ヘルニア孔の癒着部分を指で鈍性剥離をしています。

 

 

 

れお032.jpg

 

右側坐骨から内閉鎖筋を剥がしています。

 

れお033.jpg

 

ヘルニア孔をほぼ閉鎖できました。

 

れお034.jpg

 

皮下織を閉じていきます。

 

れお035.jpg

 

皮膚の縫合も終わり、手術を完了しました。

 

 

れお037.jpg

 

術後数日経過した時の

入院室のレオの様子です。

食事も待ちかねたようによく食べてくれました。

 

れお038.jpg

 

1週間目の手術部位です。

排便排尿もスムーズにできるようになりました。

10日目にもう心配ないということで、無事退院となりました。

 

 

 

 

 

退院した日の夜、

飼主のMさんから写真が添付された嬉しいメールをいただきました。

 

院長先生、副院長先生を始めスタッフの皆様へ

レオを助けて下さり、本当に本当に有難うございました!!!

大変な手術を2度も、しかも夜遅くまでして頂いたり
ワガママなレオを手厚くケアして頂きとても感謝しています。

レオは帰宅する途中も、帰宅してからも
しばらくは???と言う感じでしたが
時間が経つと慣れてきたのか、大好きなアフロ犬のおもちゃで遊び始め、
父が帰宅するといつも通り、玄関までお迎えにまで行きました。
そして寝ました...

しばらくレオがいなくて寂しかったですが
ようやく家族全員が揃いました。
この幸せな時間があるのも、皆さんのお陰です。

本当にありがとうございました!!!

また来週外来に伺いますので、これからも宜しくお願い致します。

 

Mより

 

 


 

 

れお039.jpg れお040.jpg 

 

 

 

 

大きな手術を乗り越えたレオちゃん、

その後も気持ちよく排便し、元気一杯で過ごしています。