左前足の足裏におできのような豆ができたので、診てほしいとバーニーズが来院しました。
症例: バーニーズ 1歳3ヶ月齢 オス BW32kg ジェス
診察すると、左前肢端の第3指と第4指の指間に17mm径の丸いドーム状の腫瘤ができていました。
歩かせると、やはり左足をかばって歩きます。家でも舐めているようでした。
腫瘤に針を刺して(FNA)細胞の検査をしてみました。
それがこの所見です。
輪郭が明瞭な円形から楕円形の単核細胞が多量に採取できました。
肉眼上の外観、大きさを含めた総合的判断で、皮膚組織球症と考えられました。
この腫瘍は良性なので、大きなマージン(正常組織との境界線)を取らずに腫瘍だけの切除が可能です。
そこで、飼い主のEさんと協議し、早めに切除することにしました。
全身麻酔下で腫瘍周囲の消毒をしたところです。
電気メスを使用し、腫瘍をえぐるように切除しました。
吸収性縫合糸のオペポリックス3-0で縫合しました。
切除した腫瘍です。
長径が17mmありました。
病理検査の結果は次のようでした。
診断: 皮膚組織球種
良性の腫瘍性細胞の結節性増生が認められました。腫瘍境界は不規則ですが、取り切れており、悪性所見はありません。
真皮から皮下に及んで増生する卵円形小型の腫瘍細胞は、細胞質が豊富で細胞境界は不明瞭です。円形核には大小不同がみられ、核膜の陥凹など核の変形が認められますが、細胞のほぼ中央に位置し、構成する細胞の異型性は軽度です。
腫瘤表層には厚い痂皮が付着し、また腫瘤内にはリンパ球浸潤が認められます。
これは手術20日後の術部 の様子です。
傷も塞がり、すっかり治っています。
が、 実は手術9日目に
縫合部が完全に開いてしまったのです。
E・カラーを付けていたのですが、舐めれていたようです。
それと、体重がダイレクトにかかる部位なので、縫合糸(吸収性)が持たなかったようです。
9日目に再度、ナイロン2-0で縫い直しました。
体重の重い犬の足裏の縫合は強い糸!!が今回の反省点でした。
《重要な追記》
バーニーズマウンテンドックと組織球とは、実は非常に注意しなければならない組み合わせなのです。
専門的になりますが、記載しておきます。
《組織球》・・・組織球は骨髄造血幹細胞に由来し、この中に樹状細胞とマクロファージが含まれる。マクロファージは高い貪食能を有している一方、樹状細胞は貪食能は低く抗原提示に特化した細胞である。
さて、組織球系の腫瘍には良性と悪性があります。
良性・・・皮膚組織球腫
悪性・・・局所性組織球肉腫(関節周囲に好発)
HS:播種性組織球肉腫(以前は悪性組織球症と言われていた。)
十数年程前から、悪性組織球症がバーニーズに多く発生し、予後が非常に悪いことが報告されました。当院でも数例の同症を経験し、早期に死の転機をとりました。
(フランス獣医学会のまとまった統計によると800頭のバーニーズの遺伝子解析をしたところ4分の1の200頭にHSの遺伝子が存在しました。)
HSでは、全身の広範囲(胸腔、肝臓、脾臓、リンパ節、他)に肉腫である腫瘤が発生し、
早いスピードで血球減少、低アルブミン血症になり、予後不良になります。
今、この病気については研究が進められ、日本獣医がん学会でも症例の集積と治療報告が集められています。その中でタイプによりCCNUという抗がん剤で長期生存する例も少数で報告されていますので、希望を捨てるべきではないでしょう。
この記事へのコメント