数日前から嘔吐があり、今日は食欲がありません、という主訴で3歳のゴールデンレトリバーが来院しました。
症例: ゴールデンレトリバー 3歳 去勢オス BW33kg ハッピー
体温39.4℃で軽度の発熱、
血液検査では数値的に軽度脱水以外は異常所見は見られません。
ハッピーは病院によく慣れている子で、試しにおやつのクッキーを1つ与えると、パクリと食べました。
誤食による胃障害と仮診断し、輸液、制吐剤等の対症治療を行いました。
症状が改善しなければ翌日も来院をお願いしました。
翌日になっても嘔吐は続きました。
そこで、造影検査を実施しました。
単純撮影では、大弯部で液体とガスの貯留による拡張が見られます。
小弯から幽門にかけて円形のマス陰影があります。異物でしょうか?
側面像での幽門洞のガス像の中にやはり不整形のマス陰影が見られます。
造影は50%バリウム剤を100cc飲ませました。
この写真は20分後です。
胃からの流れは停滞しており、真っ直ぐ尾側に下がるはずの十二指腸が縮れているようです。
2時間後の所見です。造影剤の流れは小腸の途中で止まっていて、明らかな腸閉塞所見です。
何よりも十二指腸がアコーディオン状に縮れ所見を示していて、これはひも状(線上)異物による
腸閉塞です。
以前、このような大型犬がひも状異物所見を見せた時、タオルを引き裁いて細長くなり、これを飲み込んだ症例を経験していました。
おそらく、ハッピーも同様にタオルの可能性があります。
このようにアコーディオン状に腸が縮れると、ひもの部分が腸を切ってしまう危険があります。
最後のレントゲンを撮影した時間が夜8:00を廻っていましたが、明日まで待つのは危険と考え、
この日の夜、開腹手術を実施しました。
手術直前のハッピーです。お腹が痛いせいか元気がなく不安そうな顔つきをしています。
麻酔はアトロピン、ドロレプタン、スタドールで前処置後、プロポフォールで導入後、
イソフルレン吸入麻酔で維持しました。
患部は十二指腸が中心と思われたので、胃から腸まで確認できるよう、上方正中切開を尾側に延ばす切開をしました。
腹壁を開くと腹膜に付着した脂肪と大網が現われます。
充血し縮れこんだ十二指腸が見えてきました。
空腸も同様に縮れ込んでいます。
アコーディオン収縮を起こした小腸全体を腹腔外に露出しました。
これを見てもよほど苦しかったんだろうと想像できます。
手術の方法として縮れた腸のほぼ中央を小切開し、つながっているひも状物を切断しました。
これで、長い異物は2つに分断されました。
そして、閉塞の遠位(一番先)にあった固まり状の異物を少し大きめに切開して、取り出すところです。
出てきたものは糞便を吸収したタオルでした。
真中で半分に切ったことで、一旦顔をだして固まりが飛び出ると、するすると抜けるように除去できました。
近位半分はまだ残っていますが、腹腔内汚染を防ぐため、この部分はすぐに縫合しました。
タオルの一番近位(手前)はどこか確認したところ、胃の幽門の手前にありました。
血管の少ない胃の小弯部分を切開しています。
バリウムが付着したタオルが出てきています。
胃側から出てきた半分のタオルの全貌です。これがひも状に引き伸ばされて
腸に詰まったのです。
取りだした後は、型通り吸収性縫合糸(PDSⅡ)で縫合をしました。
アコーディオン状になった腸が整復されました。
右手に持っているのが胃の縫合部、左手が遠位の縫合部です。
中間にひも状になったタオルを半分に切断するために切開した部分の縫合部が見えます。
小腸を腹腔内に戻し、2リットル生理食塩液を使って腹腔内を洗浄しました。
この洗浄は十分行うことが重要です。術後癒着を予防するためです。
もうひと踏ん張りです。
腹壁を型通り、縫合します。
皮膚も縫合し、手術は終了しました。
胃から腸にかけて閉塞していたタオルの全容です。
G・レトリバーはこのようなタオルを引き伸ばしながら飲み込んでしまうことが
少なくありません。十分気をつける必要があります。
手術直後のハッピーです。
まだ覚醒はしていません。
終了したのは午後11時を過ぎていました。
術後2日間は、静脈ルートで点滴を行いました。
2日目から少量の流動食を与えました。
3日目には食欲旺盛になり、一般状態も極めて良好に回復しました・
そして、5日目に退院することができました。
大型犬でも最近は室内飼育が多くなりました。
これは、犬が室内にある様々な物品を口にしてしまう機会が増えた、ということです。
注意深いオーナーの方は、こういう物を食べたかもしれない、と告げてくれます。
日中、仕事で留守する家では、留守中の動物の状態がわかりません。
フードだけ食べてると思いがちです。
「うちの子に限って・・・・」は
動物の世界でも通用しないことを知っておきましょう。
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