地震の影響と思われる理由で、来院した犬や猫が少なからずありました。

殆どが精神的なパニックに陥り、その直後に起こす行動によって被害をこうむっています。

あるいは、恐怖、不安がトラウマになり、

その後の体調変化を引き起こしているようです。

そしてどうも猫の方が実際的な被害が多かったようです。

 

その1として、地震直前に外出してしまい、交通事故と思われる受傷で、

断脚を余儀なくされた猫の症例を紹介します。

症例: 日本猫  避妊メス 6歳  BW2.1kg  モヨ

 

主訴:

地震前から行方不明になっていたが、昨夜帰宅(8月16日)。

左後肢が原形をとどめない程、腐っている。

右後肢も皮膚が破れ、ひどい状態になっている。

 

血液検査所見:

HCT 23.3%↓ WBC 16500  PLT 777000

Glu 112  T-Cho 111  BUN 24  Cre 0.6  T-Plo 5.5 Alb 2.4

GOT 10> GPT 10>  T-Bil 0.2

 

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左後肢の踵から下は皮膚、筋肉がそげ落ち、骨も腐りかけていました。

右後肢も毛で見えにくいですが、皮膚の欠損部が広範囲にあります。

 

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受傷部分の拡大写真

左後肢の足先は引きちぎられています。

踵から遠位の 残っている中足部は皮膚、筋肉はそげ落ち壊死しています。

 

右後肢の踵より遠位の内側皮膚が2か所で大きく開創、欠損しています。

舐め壊しのため、感染を起こし化膿しています。

 

このような受傷は交通事故によるものと思います。

 

 

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断脚を余儀なくされた状況に、

飼い主のMさんは、ひどく落ち込んで、安楽死も考えたようでした。

断脚をしても、狭いエリアで生活させれば快適に暮らせることを説明し、

相談の結果、断脚を含めた治療に同意していただきました。

このような現況を一刻も放置してはいけないと判断し、

その日のうちに手術を予定しました。

 

 

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モヨには麻酔がかけられ、受傷部にはべトラップ包帯を施しました。

 

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断脚は治癒後の負担を考えた時に、なるべく上で切断するのが良いのです。

そこで、大腿骨を中央から切断、周囲の血管は結紮、筋肉は骨を包める程度に残しました。

 

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残った太腿骨の切断面を筋肉で被い(これがパットの役割をします。)

皮下織、筋肉を縫合し、断脚手術を終了しました。

 

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右後肢の中足部の内側の皮膚欠損部の周囲の毛刈り、剃毛をし、消毒をします。

骨の一部、腱も露出しています。

この部分は、感染を起こし膿んでいるので、無理に縫合はできません。

 

 

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殺菌剤イソジンゲルをたっぷりと塗り、包帯処置で傷口を小さくなるのを待つことにしました。

 

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べトラップ包帯を施し、完了です。

この包帯は毎日交換します。

 

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手術が完了した直後です。

 

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処置10日目の受傷部です。

 

感染は治まり、良好な肉芽形成と上皮化が起こっています。

この頃から創傷治療外用薬のアイプクリームとイサロパンを使用しています。

傷もかなり小さくなりました。

 

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20日目です。

傷は更に小さくなりました。 

 

14日目に退院しましたが、家では食欲元気旺盛で、

かなり歩きまわるとのことでした。

 

コメント:

モヨは、実際には地震の前に交通事故にあったかもしれません。

しかし、地震が家に帰らせる時間を遅らせた可能性は否定できません。

 

この他にも、地震の日から行方不明になった猫の問い合わせが何件もありました。

神戸や新潟の大地震の時も、犬に関する情報、エピソードは大きく報道されましたが、

犬以上に猫は被害を受けているかもしれません。

猫飼いの方々は、心しておく必要がありそうです。