「呼吸をする時にいびきのような「グーグー」という音を出して、
呼吸がしにくいようです。」
という主訴で、柴雑種犬のシュートが8月27日に来院しました。
最近は、固いドライフードを食べなくなったようです。
症例:
柴の雑種犬 オス 15歳 BW10.5kg シュート
主訴: 呼吸異常
そこで、レントゲン検査、血液検査を行いました。
血液検査所見:
HCT 32.0%↓ WBC 22100↑ PLT 468000
Glu 120 T-Cho 145 BUN 22 Cre 1.7 T-Pro 5.5 Alb 2.2↓
GOT 28 GPT 63 T-Bil 0.2
慢性炎症を疑わせる所見です。
レントゲン所見:
胸腔内に呼吸障害を疑わせる異常所見は見られません。
心臓陰影も正常レベルです。
頭頸部では、鼻咽喉頭部の軽度拡張が ありますが、
腫瘤病変は確認できません。
ただ、鼻咽喉頭の拡張は、これより頭側に原因がありそうです。
呼吸異常では、鼻腔内に異常を認める場合もあります。腫瘍、異物等です。
(腫瘍、異物がある場合、鼻汁、鼻出血が見られますが、シュートにはありません。)
鼻腔エリアでの透過度の異常はありません。
腫瘍による鼻甲介の変位、融解所見等も見られず、正常レベルです。
結局、血液検査、レントゲン検査では原因が特定できませんでした。
ただ、どうも咽頭、口蓋あたりに病変があるのでは?
との推測はできました。
ところが、シュートは口腔内を見せてくれません。
呼吸が辛いこともあるのでしょうが、
飼い主のSさんにも大きく口を開かせず、トライすると咬みつきに来ます。
そこで、麻酔をかけて口腔内を精査する提案を出し、Sさんに同意をいただきました。
麻酔下での口腔内所見:
麻酔は、ドロレプタン+アトロピン+スタドールで前処置後
イソフルレン吸入麻酔で導入、維持しました。
口腔を大きく開口させると、硬口蓋から軟口蓋にわたり、お菓子の「きんつば」状に
硬結した腫瘍が確認されました。
腫瘍は周囲組織にがっちりと固着され、確認できるのは氷山の一角のようです。
拡大した口腔内腫瘍!!
原因はこれでした。
口腔内3大悪性腫瘍が知られていて、
「悪性黒色腫(メラノーマ)」「扁平上皮癌」「線維肉腫」です。
(最近は4つ目としてG・レトリバーの高分化型線維肉腫が挙げられます。)
どのタイプもきわめて厄介で、 根治の為には
早期に発見し、顎骨を含めた拡大切除が必要であり、合わせて「放射線治療」も
必須になる場合もあります。
3つのうちで、最悪と毛嫌いされるのが発生最多の悪性黒色腫です。
外科でこれでもかと切除しても再発転移をするのです。
シュートの口腔内の腫瘍の大きさ、外観を眼のあたりにし、
深追いはできないと直感しました。
ここは、FNA(針生検)だけにし、麻酔から覚ますことにしました。
FNA所見:
細胞質にメラニン顆粒(黒色)を含む細胞が認められ、
核の大小不同、多形性、核小体、粗大クロマチン結節など
悪性所見が認められました。
これは、悪性黒色腫(メラノーマ)所見と一致するものでした。
結果について、飼い主のSさんに説明しました。
Sさんは納得され、穏やかな対症治療を望まれました。
* ちなみに、この症例の場合、放射線治療が第一選択になります。
メガボルテージの放射線治療装置がある施設(各大学病院、三重の南AH)での
週1~3回 合計4~12回 の全身麻酔下での高エネルギー照射が必要です。
緩和治療か?根治治療か?により回数、間隔、総照射量が違ってきます。
施設により方法も異なるので、私設ごとの充分なインフォームド・コンセントが
必要になります。(費用は1クールで平均50万円前後ということです。)
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