症例・・・M・ダックス  オス  8ヶ月齢  BW4.7kg  クッキー

主訴・・・今日、家の階段を降りる途中に一段踏み外して転んだあと、左前肢を着地しない。

     手先を触ると痛がる。

 

8月6日の夕方、かかりつけが今日休診ということで、M・ダックスのクッキーが来院しました。

 

若いM・ダックスが階段から落ちた直後、前足を痛がり着地できなくなった場合、

考えられることは、前腕骨骨折、肩あるいは肘の脱臼、捻挫(靭帯損傷)などです。

肩から触診しながら、左前肢の痛みの部位の確認を下方にずらしていきました。

すると、中手骨(手の甲)のすぐ遠位が盛り上がり、そこを触ると痛がります。

「指の脱臼かもしれない!?」

直感的に感じて、レントゲン検査を行いました。

 

 

 

まきもと1.jpg

 

レントゲン検査所見:

左前肢 第3中手骨~基節骨関節の上方脱臼

 

が確認されました。

 

このような指の脱臼はかなりまれで、私自身数十年の経験の中でも

記憶にありません。

触るとかなり痛がるので、全身麻酔をかけて整復することにしました。

 

麻酔は前処置の後、直ぐ覚めるように吸入麻酔をマスクで導入しました。

 

まきもと2.jpg

 

麻酔状態に入り、触っても痛みがないことを確認し、

あらためて触診してみました。

「これは、爪を引っ張る必要があるな。」と考え、

把持鉗子を取りに、その場を離れました。

助手で傍にいた里村先生が

「どれどれ、私も触診してみます。」

と、触っている時、

「あ!!」という大きな声が聞こえました。

「パキ!という音がしました。」

と、びっくりしているので、

クッキーの所に戻り、脱臼している指を触りました。

「何だ、はまっているよ。整復できたんだ。」

確認で、再度レントゲンを撮ると、見事に元に戻っています。

周囲にいたスタッフも

「うわあ、里村先生が整復したんだ、すごい!!」

と拍手喝采です。

「どうやって、整復したの?」

「いや、出っ張っているところを、強く押したら、音がして・・・」

「いやあ、とりあえず結果オーライだよ。よかった、よかった。」

 

院長の立場はなくなってしまいましたが、

一瞬にして整復してしまった里村先生の株は急上昇しました。

 

まきもと3.jpg

 

その日は、念の為に患部をべトラップで固定して、帰宅することができました。

翌日の検診では、普通に歩いていて触診による痛みもありません。

「これにて、一見落着ですね。」

飼い主のMさんも、

「様子を見ないで連れてきて、ホントに良かったです。」

と喜ばれました。

私としては、ちょっと複雑な気分でしたが・・・。