モルモットの乳癌を2回に分けて摘出した症例をご紹介します。

症例:モルモット(イングリッシュ) 4歳8ヶ月齢 メス BW1007g  パンタ

主訴: 数か月前から発生した足の付け根の腫瘤が大きくなってきた。

身体一般検査: 食欲元気あり。 一般状態良好。

          触診により、左右の乳腺内に大豆大の硬結した腫瘤と

          乳管内の乳汁貯留が確認された。

診断: 乳腺腫瘍

    良性か悪性かの判断は組織診断が必要なため、オーナーの希望により左右の乳腺内腫瘤の 摘出手術を2回に分けて実施した。

1回目 6月24日: 左側乳腺内腫瘍摘出手術

2回目 7月13日: 右側乳腺内腫瘍摘出手術

 

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20日前に1回目の手術がすでに実施され抜糸が終わりました。

この日(7月13日)は2回目の右側乳腺腫瘍の摘出の為に麻酔をかけました。

前処置として、2時間前に鎮痛剤としてケトプロフェン、術前にアトロピン、ドロレプタン、ケタラールを投与、イソフルレンで麻酔導入しました。

モニターで心拍、酸素飽和度をチェックします。

 

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左側はすでに乳腺腫瘍が切除され、傷の癒合も良好です。

右側の後肢の付け根に黒く見えるのが乳頭です。

判り辛いですが乳頭より尾側にドングリ大に腫瘍ができています。

乳腺腫瘍と共にこの乳首も切除します。

 

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手術部位を消毒し、ドレープがかけられました。

 

 

 

 

 

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暗くて判りにくいですが、切除ラインに沿って皮膚を切開しています。

 

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乳腺組織なので、周囲に血管が豊富です。

この手術ではアルゴン用電気メスを使用して、極力出血を防ぎました。

また、鼠径動静脈の結紮に注意を要します。

切除できたところです。

 

 

 

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縫合が終了しました。

 

 

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手術が無事に終わりました。

モルモットの手術では、最も気遣うのが呼吸管理です。

 

 

 よだれが多かったり、舌の位置、頭部の傾斜などでも呼吸状態に影響します。

今回も手術中に、口腔内のよだれを拭ったり、舌を少し引っ張ったり、マスクを変えるなどの

呼吸状態に合わせた対応を麻酔係りが行っています。 

 

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切除した腫瘍は3.8㎜×2.2㎜の大きさでした。

 

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手術後覚醒した後、入院室でのパンタの様子です。

術後2時間程してから野菜を食べ始めました。

 

病理組織学的診断:  腺管癌 

  乳管上皮由来の悪性腫瘍性病変(乳癌)の浸潤性増勢が認められました。

腫瘍境界は比較的明瞭で、取り切れていますが、乳管内を進展性に拡がる癌細胞が認められる為、残存する乳腺組織での再発の可能性があります。脈管侵襲は見出されません。

 

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×20  乳癌

 嚢胞状に拡張する部分も多数見られる乳癌の多結節状増生が形成されています。

 

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×400 乳癌

 

クロマチン豊富な円形不整形核を有する癌細胞は、不規則な大小腺腔を形成して密に増生しています。

 

コメント:

このように、モルモットにも乳癌があります。

モルモットの乳房は一対(二つ)なので、鼠径の近くにできる腫瘤は乳腺腫瘍を疑う必要があります。

パンタは両方の乳腺を腫瘍と共に切除しましたが、悪性腫瘍なので局所再発の可能性は否定できません。

今後も注意深く観察していく必要があります。