「ハムスターの頭のできものが破れて、出血が止まらないんです。診てもらえますか?」

6月18日の日も沈み、仕事を終ろうとしていた矢先、電話が入りました。

初診の方でしたが、「頭の出血」=救急と判断し、すぐ来院するよう答えました。

来院したG・ハムスターの様子を見た瞬間、息をのみました。出血がかなりひどいのです。

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症例: ゴールデン・ハムスター 2歳1か月齢 オス BW184・5g  ハム吉

主訴:1年前から、頭に小さなできものがあった。

    1ヶ月前から急に大きくなり、ブヨブヨしてきて、昨夜破れ出血する。止まったと思うと

     手でかじってまた出血する。

 

 

治療: 一見して腫瘍が破れての出血です。

    局所止血剤で圧迫止血を試みましたが、ちょっとした刺激でまた出血します。

    昨夜からのトータル出血量は多量であり、緊急の摘出手術以外救命できないと判断し、

    飼い主のKさんに説明し、直ぐに麻酔下での摘出手術を実施しました。

 

 

 

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応急処置として皮下輸液、止血剤、抗生剤を投与、イソフルレン麻酔で導入しました。

腫瘍の周囲を素早く、剃毛し、消毒しました。

 

 

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電気メスで止血しながら、腫瘍の周囲を切開していきます。

 

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皮下織は剥離用はさみ(メッツエンバウム鋏)で剥がしていきます。

 

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3分の2が切開できたところです。  

 

   

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腫瘍を切除し、縫合は5‐0ナイロンで縫い終わりました。

手術は麻酔係、助手を含め、3人で行いました。

ハム吉は2歳という年齢(ハムスターでは高齢)、多量の出血というリスクにもかかわらず、

手術に耐え、覚醒も順調でした。

 

 

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切除した腫瘍です。

血液が豊富な弾力がある充実性の腫瘤でした。

この腫瘤の病理検査を行いました。

 

病理組織学的診断:  血管肉腫

  血管内皮細胞由来の悪性腫瘍性病変が認められました。

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血管肉腫  ×20

 真皮から皮下に及んで、複雑な断面を占めす様々な大きさの血行路で腫瘤が形成されている。

 

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血管肉腫 ×400

核小体明瞭な多形性核を有する紡錘形の腫瘍細胞が、小血管腔を含む充実性増生巣を形成して密に増生し、核分裂像が多数認められる。

 

コメント:

血管肉腫は血管を構成する非上皮系の結合組織に発生した悪性の腫瘍です。

血管のあるところにはどこでもできる可能性がありますが、

犬では脾臓、心臓、皮膚が多く、猫では犬より発生率は低く、脾臓、腸間膜、皮膚が報告されています。

血管の悪性腫瘍のため、出血が死因になり得ます。

 

 

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その後、ハム吉は何度かの通院のあと、15日目の7月3日に抜糸の為に来院しました。

食欲元気もあり、体重は196gに増加していました。

 

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抜糸をスムーズに行えるよう、麻酔をかけました。

 

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無事に抜糸終了し、5分後には何事もないように元の元気なハム吉の動きに戻りました。

悪性腫瘍なので、今後も検診を続ける必要性を説明したことは云うまでもありませんが、

危機一髪のところで救命することができたことに、飼い主のKさんには大変喜んでいただけました。