7月2日来院。
主訴:夜から今朝にかけてマンション自宅4Fから落下した。
今朝、マンションの庭でうずくまっているところを発見、右前肢を跛行していた。
症例: 雑種猫 1歳1ヵ月 去勢オス BW5・9kg メル
血液検査: 落下による全身打撲からと思われるGOT、GPT、CPKの高度上昇がみられた
HCT,WBC、BUN,Cre、Gluは正常、出血なし。
レントゲン検査:
右前肢前腕骨(橈骨、尺骨)の骨折
他の骨格、内臓には著変は見られなかった。
右前腕部の中央で橈骨、尺骨とも完全に骨折し、橈骨骨折部断面は細骨片に剥離化していました。
治療: 尺骨のピンニングによる外科的整復。
コメント・・・前腕骨折が最も多く起こるのは、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワなどの超小型犬で、抱いていて落とした、椅子から飛び降りた等の理由で、殆どは遠位~遠位端(手首に近い方)に発生します。
猫では比較的珍しいのですが、高層住宅が増えてきた為、2F以上のベランダからの落下によるこの部位の骨折は起こり得ます。
犬では、骨の太さ、骨折部位の関係から、殆どが橈骨をプレートやピンで固定するのですが、
今回の猫の症例では骨折が骨幹中央部であること、尺骨の骨径がピンニングに適応できるなどの理由により、尺骨のピンニング整復術を選択しました。
手術は当日実施しました。
アトロピン、ドロレプタン、スタドールで前処置、プロポフォールで導入、
イソフルレン吸入麻酔で、術中を維持しました。
骨折した右前肢を消毒し、滅菌ドレープを覆いました。
前腕部外側(尺骨直上)を切開します。
この部分で、骨折端が触診で確認できました。
筋膜を切開剥離し、骨膜を剥がすと骨折した尺骨が露出できました。
骨折部から尺骨の近位側へ肘部に向けて
ピンを挿入していきます。
ピンは肘頭を貫通させ、骨折部ぎりぎりまで入れます。
尺骨の遠位側と近位側を骨把持鉗子でつかみ、骨折断端を合わせます。
合わせたところで、近位側に入っているピンを遠位側へ挿入していきます。
同じ長さのピンを並べて、遠位側にどれ位入ったか確認します。
整復できた尺骨の骨折端です。
肘頭部に出ている余分なピンをピンカッターで切断しておきます。
皮下織、皮膚を縫合して、手術を終了しました。
術後のレントゲン写真です。
ピンが挿入されている方が尺骨です。
橈骨の骨折部が細かい骨片で剥がれているのが判ると思います。
この部分は殆ど露出していないので、固定がしっかりすれば
癒合は早期に起こるだろうと考えています。
翌日のメルです。
食欲は旺盛で、
今日もケージレストの為入院中です。
術後の経過について、また報告する予定です。
昨日交通事故に遭いました。20歳の猫です。右上腕骨折、右太もも骨
折で腎臓の値が高いのですが、何とか救ってやりたくてメールしまし
た。よいアドバイスをお願いします。
20歳の猫が交通事故に遭い、前肢、後肢ともに骨折、しかも腎機能が低下しているということですね。
当然、病院に受診されて応急治療を受けられていると思います。
この場合、生命にかかわる問題点をリストアップして、リスクが高いものを優先して治療すべきです。
脳神経障害が出ていないか?出血の程度は?内臓の障害は?などを精査して、状態が安定してから、四肢の骨折の治療を考えるべきだと思います。
ココ数日の変化を各種検査でしっかり把握する必要性を感じます。