犬のT細胞性皮膚型リンパ腫(菌状息肉腫)の症例を現在治療中ですので、報告します。
症例: 雑種犬 13歳 オス BW27kg ゴン太
プロフィール: ゴン太は10歳までは、狂犬病注射、フィラリア予防で来院するだけで、
病気をすることもなく、健康でした。
H19年5月・・・耳血腫手術、 BW37kgで肥満・・・・減量を指示
H21年1月・・・1ヶ月前から眼周囲、外耳道、口唇部、肢端、背中、肛門周囲など全身
に膿皮性皮膚炎が発症、 真菌培養(+)、アカラス(‐)
スタンプ検査: 炎症細胞、桿菌多数
診断: 細菌感染、真菌感染を伴ったアトピー性皮膚炎?
治療: 抗生物質、抗真菌剤,薬浴治療で軽減する
* 治療をストップすると軽減、増悪を繰り返す。
H21年6月・・・同症状が続き、難治性免疫介在性皮膚疾患、皮膚型リンパ腫を疑い、
頸部にできた結節様皮膚病変のFNAを実施しました。
円形の単核細胞が多数採取されました。
大きさと染色性にはばらつきがあり、一見して腫瘍性リンパ球の集簇と考えられました。
確定診断の為、この皮膚病変を切除し、組織病理検査をすることにしました。
6月FNAを実施した時のゴン太の顔です。
眼周囲、口唇部の皮膚炎、舌もただれています。
口唇部の拡大写真です。
よだれが多く、常に濡れていて、、肥厚、発疹、発赤、縻欄などが混在しています。
肛門周囲も同様の皮膚病変です。
頸部にできたFNAで異型リンパ球の集簇が見られた皮膚病変を
麻酔下で摘出することにしました。
摘出予定皮膚病変にドレープをかけます。
アルゴン電気メスで切除していきます。
完全に切り取りました。
型通り縫合しました。
摘出した皮膚病変は組織病理検査と免疫検査を実施することにしました。
病理組織学的診断: T細胞型-皮膚型リンパ腫
×20
単調な腫瘍細胞が特定の配列をとらずにビ慢性に増殖し、
皮下脂肪織で深部方向へ浸潤性に不規則に拡がっています。
×400
構成する細胞は、核膜厚くクロマチン粗剛な多形性核と、
濃染する細胞質を有する細胞境界明瞭な小型細胞で、
核分裂像が散見されます。
免疫染色 ×400 T細胞型悪性リンパ腫
CD3
T細胞の分化を示すCD3で陽性の染色性を示しました。
免疫染色 ×400 T細胞型悪性リンパ腫
CD20
B細胞マーカーであるCD20では陰性を示しました。
この結果、当リンパ腫がB細胞型ではなく、T細胞型であると診断されました。
コメント:
皮膚に発生するT細胞型悪性リンパ腫を、上皮向性リンパ腫、または「菌状息肉腫」といいます。
リンパ腫はB細胞型、T細胞型があり、B細胞型は抗ガン剤の反応が比較的良いのですが、
T細胞はより悪性であり、抗ガン剤の反応も悪いのです。
Small Animal DERMACOROGY より
上皮向性リンパ腫の特徴・・・Tリンパ球由来の悪性腫瘍である。
犬と猫ではまれに見られ、老齢動物では発生率が高い。
病変部は単発性から多発性の局面及び/または結節で、大きさは直径2、3㎜~数㎝の範囲である。
全身性の紅斑、脱毛、痂皮、及び搔痒と落屑が見られることがある。
皮膚粘膜移行部の色素脱失と潰瘍化、または潰瘍性胃炎が起こることがある。
本疾患は通常緩徐に進展し、慢性例では末梢のリンパ節腫大や全身症状が認めれることがある。
治療:
単発性の病変は外科的切除または放射線療法を選択する。
多発性では唯一、化学療法の組み合わせ(プレドニゾン、細胞毒性薬物)による治療がわずかに効果的である。
予後:
治療に関わらず、予後は不良である。多くの動物は診断後1年以内に死亡する。
診断後の治療経過:
ゴン太の治療として
プレドニゾロン、抗生剤(セファレキシン)、クロラムブシル(抗ガン剤)
を処方しています。
けれど、食事に混ぜても薬をうまく吐き出してしまったり、食欲が不安定なため、
毎日飲めない状況にあります。
皮膚の状態は徐々に悪化しています。
現在の体重は21kgに減少しています。
背中の皮膚病変です。
紅斑性の結節病変が多数増加し、脱毛と落屑が見られます。
肛門周囲は炎症と肥厚、縻欄が激しく、痛々しい様相です。
飼い主のSさんと定期的にインフォームドコンセントを行っていますが、
出来るだけそばで一緒の時間を過ごしたいという希望から、
入院はしないで、在宅治療を続けています。
食事はお腹をこわさないなら、ゴン太の好物を与えるようアドバイスしています。
毎日を大切に過ごすことができるよう、今後もスタッフ一同協力体制をとっています。
我が家の大切な愛犬(ビーグル もん太 9歳)もT細胞性皮膚型リンパ腫と診断され、2か月ほど経ちます。珍しい症例らしく情報がありませんでしたが、このサイトもかかりつけの獣医さんに教えていただき、読ませていただきました。普通の皮膚炎だと思っていたのに・・本当にショックでした。告知されてから、しばらくは食欲もあり、普段と変わりなく過ごしていましたが、最近お尻周りの腫瘍が大きくなり、両手の爪が剥がれたりと痛々しい姿になり、見ているのもかわいそうです。抗がん剤治療はしないで最後まで精一杯可愛がってあげよう・・と思っています。抗がん剤治療を望まないというのは間違っているのでしょうか・・・ゴン太くんの飼い主さんもどんな思いをされているのか・・考えると胸が痛みます。でも同じような病気のワンちゃんがいるということが分かり少し気持ちが落ち着きました。これからも少しの情報でもわかれば教えていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
ゴン太は在宅治療を続けていましたが、
8月に入ってからは状態が悪化の一途をたどりました。
そして、飼い主様に見守られながら旅立ちました。
T細胞型-皮膚型リンパ腫の最新の情報としては抗がん剤であるCCNU(ロムスチン)が効果が期待できる薬として報告され始めています。
ただ、この薬は日本では販売されていません。
もし、使用するとすれば個人輸入しかないでしょう。
もん太ちゃんも心配ですね。
この病気の経緯はブログに掲載したとおりですが、
それを踏まえて治療法を選択することになりますが、正解があるわけではないと思います。
看護の密度、治療費用、飼主の理解度など総合的に判断すべきでしょう。
有仁
お返事ありがとうございます。この1週間で腫瘍もどんどん大きくなり、前足の腫瘍も大きくなってきました。次第に元気もなくなってきましたが、飲んでるステロイド剤の影響なのか、食欲はあります。なんとかしてやりたい!!と思いますが、個人輸入の薬なんて費用のことも考えると私には手に入れることもできません。私がしてあげられることは悲しいことに、ただ一つです。もん太のこれからの時間を一緒にいて、かわいがってやるしかないかな・・と思います。辛いことですが、病気のことは受け止めないとダメですね。 天に召されたゴン太くんのご冥福をお祈り申し上げます。
パピヨン13歳の雌
昨年一月に椎間板ヘルニアの手術をしました。3月頃から、後ろ脚の毛が抜けてきたので、病院に行きましたが、改善されず、6月に精密検査をしたのですが、なかなか結果がでず、やっと9月にb型リンパ腫と診断されました。それから一年毛はほとんど抜けた状態で、2次感染のためかあちこち腫瘍ができてきてます。かゆみ止めと抗生物質を飲ませていますが、改善されません。
お医者さんからよく持ってますねと言われたいますが、日々悪くなるのを見るのはつらいですが、食欲があるのでこのまま様子みしかありません。出血のためか臭気がすごく大変です。
こんな病気があるんだ初めてしりました。 辛いですが、犬自体もっと辛いのだからと思ってる毎日です。
ラブラドールレトリーバー11歳雄ですが、やはり皮膚リンパ腫になってしまいました。先週から急激に病状が悪化し、体表の腫瘍が自壊して、出血、化膿、悪臭等の症状があります。抗がん剤は使用せず、ステロイド投与を続けており、完治は望むべくもないのですが、せめて化膿部分の消毒だけでもと思い先生に話したところ、「消毒をすると、傷を治そうとする細胞も弱らせてしまうため、消毒自体の効果が疑問視されてきている」との説明があり、処置しなかったのですが…本当に消毒は効果が無いのか、体表の患部は放置するしかないのか…見た目もあまりにも痛々しく、何かしてあげられることはないものかと思っています。
ご心配のことと思います。
皮膚型リンパ腫に効果が期待できるのは、強い抗がん剤しかありません。表層部だけの消毒薬をつかっても、皮膚の再構築機構が破壊されているため、効果はありません。
刺激性のある外用剤を使用すると、かえって痛みが悪化するかもしれません。
化膿部分の対応には、注射や経口薬の抗生剤が妥当でしょう。
最新のリンパ腫の治療としては、高価で、治療できる施設は限られていますが、活性化リンパ球療法といったがん免疫療法が
報告されています。
丁寧なご回答ありがとうございます。
せっかくご回答いただきましたが…翌日27日の朝に眠りにつきました。
最期を家族で看取ることができたのがせめてもの救いだったと思います。
ありがとうございました。