症例・・・アメリカン・ショート・ヘア  オス 5歳10か月 BW3.35kg  クッキー

プロフィール・・・3種混合ワクチン定期接種

          H21年2月 軟便が続くため治療

          H21年5月 軟便、血液検査にて肝臓酵素上昇(肝障害)を認めたため治療

主訴(5月30日)・・・3日前から食欲低下、食べると嘔吐する。

身体一般検査: BCS2.5  T38.4℃ 可視粘膜が淡黄色 

 

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血液検査: HCT 42.0%、 WBC 11500 

        Glu 161、 T‐Cho169、 BUN10、Cre0.8、

        GOT1000<、GPT1000<、ALP280、 T‐Bil1.6、 TP7.1、Alb2.6

    FELV(-) FIV(-)

仮診断: 胆管疾患を伴う重度肝障害

 

治療: 入院にて継続点滴治療(強肝剤、抗生剤、ビタミン剤)

 合わせてエコー検査を実施 

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エコー検査所見: 肝外胆管の蛇行、拡張所見が見られた。

 

経過:

継続した静脈ルートからの強肝剤を加えた点滴治療を数日実施しましたが、改善は見られませんでした。肝臓、胆管系に効果が認められる第2世代セフェム系抗生剤(セフタジジム)を使用しても効果は見られないばかりか、黄疸数値は悪化していきました。(T-Bil 6.6、ALP563 に上昇)

胆嚢内には胆石や沈殿物は見られなかったので、

胆道を圧迫する腫瘍、腫瘤病変が考えられました。

 

飼い主のKさんと相談し、原因追及の為の開腹手術を入院6日目に実施することにしました。

 

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 麻酔はドルミカム、スタドールで前処置、ポロポフォールで導入、イソフルレンで維持しました。

 

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腹壁を開くと、全域が炎症像を示し、腫大した肝臓が見られました。腹水も確認されました。

 

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これは胆嚢です。 拡張しています。

 

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更に総胆管を確認すると、蛇行し風船のように拡張していました。

 

 

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総胆管は十二指腸に開口するのですが、その十二指腸が硬結した腫瘤を形成していました。

写真中央がそうです。

 

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更に膵臓は本来の原形を失い、全域に及ぶ血腫様の硬結した腫瘤形成が見られました。

一見して、悪性の腫瘍を疑わせました。

 

膵臓の腫瘍、転移性とも考えられる十二指腸の腫瘤、それが原因して起こった圧迫性の胆道閉塞

が今回の黄疸の原因と考えられました。

残念ながら、この腫瘍群を摘出することはその後の生命機能維持を考えると不可能でした。

この状況で考えられるレスキュー的手術は

胆嚢十二指腸吻合術

胆嚢空腸吻合術

です。

この手術をすべきか迷いました。

結論は断念しました。

理由として、

すでに腹水が貯留し、転移が考えられる状況においては腫瘍の腹腔内播腫が疑われる。

その状況下でのリスキーなこれらの手術は癒合不全が高率に起こり、命を縮めることになる。

これは、経験的な判断でした。

そこで、膵臓の腫瘍を診断するための膵臓組織の小片を採取するに留めました。

 

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少しの期間でも楽にできないかとの思いから、貯留停滞している胆汁をできるだけ抜くことにしました。

 

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約20ccの胆汁を胆嚢穿刺により除去しました。

 

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そのあと、大量の生理食塩液で腹腔内を何度も洗浄しました。

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手術は終了しましたが原因を取り除くことができず、心痛の思いでした。

 

後日、膵臓組織の病理組織学的診断結果が出ました。

 

 

 

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病理組織学的診断: 腺癌

 

概要:悪性腫瘍性病変の浸潤性増生が認められました。腺管上皮由来が考えられます。

    線維性結合織からなる組織片が得られ、クロマチン豊富な卵円形不整形核を有する癌細胞が、不規則な小腺腔を形成して認められています。

腺内腔に粘液産生は確認されず、周囲には癌細胞からなる小塊状の増生も認められる低分化型の腺癌です。

 

 

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術後のクッキーは相談の結果、退院することになりました。

できるだけ家族と共に一緒に居させてあげたい、一日を大切にして欲しい思いがあったからです。

食欲は徐々に減ってきています。吐く回数も少し増えました。

でも、家族が温かく見守っています。一日でも長く安らかに過ごしてほしいと願うばかりです。