モモは11歳のメスの雑種犬です。
モモがS夫妻に連れられて当院を訪れたのは3年前の2月でした。
他院で緑内障と診断され、紹介で当院に来院したのです。
緑内障はすでに進行していて、治癒が可能な時期を過ぎていました。
眼圧は両眼とも50㎜Hgを超えていました。
緑内障の最大の問題点は眼痛です。
「眼の痛み」をいかにして緩和するかが、進行した緑内障の治療の柱です。
「痛み」を和らげるために点眼薬や経口薬で眼圧を下げる治療をします。
内科治療で症状の緩和が困難な場合は外科治療の選択が検討されます。
(具体的には眼圧をコントロールするために、眼房水の排泄経路を外科的に作るのです。)
さて、緑内障の治療の詳細については次回に譲るとして
今回はモモちゃんを飼育している御高齢のS夫妻とモモちゃんの絆の深さについてです。
モモちゃんの緑内障の治療はS夫妻の希望に沿って内科的に継続しました。
数種類の目薬と内服薬を根気よくご主人のSさんが続けました。
来院当時は充血が激しく検査や治療にモモちゃんもかなり抵抗しましたが、
痛みの緩和と共に、おとなしく診察と治療を受け入れてくれるようになりました。
けれどもその後モモちゃんの両目は水晶体が脱臼し、視力もすでに失われていました。
S夫人はとても心配症で、モモちゃんの事が気がかりで夜も眠れないほどです。
奥さんはご自身も時々病院で精神安定剤を処方してもらいます。
ご主人が奥さんを気遣い、微笑ましい夫婦愛を診察室で見せてくれます。
その後のモモちゃんの眼は「痛み」も少なく、食欲もあり、よく眠れるのですが、
その理由が、このご夫婦のモモちゃんへの献身的な愛情によってもたらされていることは
間違いありません。
健康な時には、毎朝ご主人に新聞を運んできていた頭の良いモモちゃんでしたが、
今は、眼は見えないので新聞を持って来れないのがご主人にとっては寂しいことの一つです。
それでも、毎日散歩は欠かせません。
視力以外の感覚器が敏感になり、かなりしっかり歩きます。
今でも朝はおもちゃを振り回して遊ぶそうです。
ご主人の趣味は社交ダンスとボーリング。(年齢は間違いなく70歳をゆうに超えています。)
前回の診察時にダンスの大会の写真を見せてくれました。
(すごく、決まっていましたよ。)
ボーリングは静岡県のアマチュア大会の年齢別で優勝したそうです。
難病の病気をもつモモちゃんをいたわりながら人生を積極的に生きるS夫妻を見るたび
こんな風に年を重ねられれば良いなと、つくづく思います。
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