症例・・・猫(アメリカンショートヘア) 15歳 メス BW2.9kg ベス

主訴・・・1ヶ月前からお腹が張ってきた。同時期より、時々前足が突っ張り、

     その後力が入らないことあり。10日前から元気減退。 食欲は普通。

一般身体検査・・・BCS2(やや痩せ気味)、T38.4℃ 腹部膨満、前肢の踏直り反応やや低下。

血液検査・・・血球分析、生化学分析において正常範囲。

レントゲン検査・・・腹部の6割以上を占めるマス(固まり)陰影を認めた。

 

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ラテラル(側面)像において、結腸、小腸を背頭側へ変位させる塊状陰影が認められました。

 

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エコー検査では、この塊状物はソーセージ様の形態であり内容は液体で、腹腔内でねったように存在していることが判りました。エコーレベルから液体はやや粘調性で、内壁から球状の腫瘤物が確認されました。

この結果から、この塊状物は大量の液体で腫大した子宮と考えられました。

 

治療プラン: 翌日にこの腫瘤(子宮?)摘出のための開腹手術を予定しました。

 

 

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入院1日目の夜、脳神経障害が起こりました。

後弓反張様症状(前肢が突っ張り、後肢は屈曲する)が発現し、歩行不能となりました。

固有位置感覚が消失し、逆立ち歩行テストでは全く反応できませんでした。

腹腔疾患とは別に脳疾患があるものと判断し、抗痙攣剤、副腎皮質Hを投与しました。

翌日、飼い主のOさんと相談し、この日の開腹手術は延期し、脳障害の治療を優先することとしました。

 

入院3日目、脳障害が治療の効果で改善しました。歩行は通常のように可能になり、神経障害はほぼ消失したことで再度開腹手術の承諾ををOさんと相談し了解を得たので、4日目に実施しました。

 

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麻酔は脳圧が高まる作用がある薬剤は使用せず、術前に抗痙攣剤を投与しました。

 

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開腹すると、巨大化した子宮が切開部から出てきました。

 

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左右の卵巣提靭帯を切り離し、子宮を反転したところです。

 

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体重2.9kgの猫の腹腔にこれほど腫大化した子宮が詰まっていました。

さぞ重かったことと思います。

 

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殆ど出血もなく、型通り閉腹、縫合しました。

 

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摘出された子宮の全景です。

 

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子宮内には茶褐色のよどんだ液体が550cc貯留していました。

この液体内の細胞成分は古くなった血液、剥がれた上皮細胞でした。

子宮内に3cm径と2cm径の球形腫瘤が内壁粘膜から発生していました。

 ( 現在、病理検査中です。)

 

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手術翌日のベルちゃんです。

術後も脳障害症状は発現せず、翌日から食事もとりました。

現在、良好な経過をたどっています。

 

この脳神経障害の原因は不明です。

血液検査結果から代謝性の神経障害は除外できます。

年齢(15歳)から、脳の腫瘍、梗塞、卒中を否定することができません。

脳疾患の確定診断ではMRI(核磁気共鳴画像法)が有効です。

この診断ができる施設は日本でも限られていますが、今年の5月から島田市に「キャミック静岡」がオープンし、この診断ができるようになります。

費用的なハードルがあると思いますが、人と同様の高度医療を望まれる飼い主の方には朗報です。