症例・・・ラブラドル・レトリバー 14歳齢 メス 26kg ラブ
主訴・・・数日前に、陰部の上が固くしこりになっていることに気づく。食欲元気あり。
一般身体検査・・・BCS3 血液検査: GPTの軽度上昇以外は正常範囲。
レントゲン検査: 胸部 老齢性の心肥大 他著変なし。
触診で、陰部背側に25㎜径の円形硬結した境界不明瞭な腫瘤が確認された。
仮診断・・・触診では、独立した腫瘍というよりも、「肉芽腫様の固い腫れ」のように感じました。
しかし部位から「平滑筋腫」もしくは「平滑筋肉腫」は考えられました。
何であれ腫瘍の疑いは捨てきれない為、切除をお奨めしました。
治療・・・外科切除。
一見するとどこに腫瘤があるか判りませんが、陰部の背側(肛門側)が膨らんでいます。
触ると、硬くしこっています。(陰部に、尿道カテーテルが留置されています。)
手術部位にドレープをかけました。
切除範囲を決め、アルゴンメスで切開を始めます。
皮膚の余裕があまりない場所なので、切除が大きすぎると切除後の縫合ができなくなる為、
縫合できるぎりぎりの範囲です。
切除範囲の皮膚切開ができました。
陰部から膣内に指を入れています。
皮下織から筋層にかけては、予想以上に出血がありました。太い栄養血管が幾つも入り込んで、
アルゴン止血だけでは無理な太い血管は結紮をしながら、切開を進めました。
切除が終わり、縫合を始めたところです。
大きな欠損部ができたので、外陰部が下垂しないように吊上げながらの縫合になりました。
縫合が終了し、手術は無事に終わりました。
切除された腫瘤です。
術後3日後です。
舐めれないので、術後の炎症もなく良好です。
術後20日後に抜糸しました。
外陰部の境界はまだ糸を残しています。
今日、残りの糸を抜糸しました。術部はすっかり治癒しています。
触診でも新たな腫瘤はできていません。
さて、この腫瘤の正体は何だったのでしょう。
病理診断の結果です。
病理組織学的診断: 線維肉腫(Fibrosarrcoma)
間葉系由来の悪性腫瘍性病変である線維肉腫が認められました。
外陰部皮膚・粘膜移行部の深部に、不規則な境界を有する充実性で細胞成分の豊富な腫瘤が形成され、表層側に見られるでん部の横紋筋からなる筋組織及び外陰部から膣付近の平滑筋組織を巻き込んでいます。腫瘤内で増生する細胞は、比較的小型均一な卵円形核を有する紡錘形のよく分化した繊維芽細胞様の腫瘍細胞で、束状配列で増生し周囲に豊富な線維膠原線維を伴って細胞密度も低いのですが、浸潤性は高度です。
周囲組織へ浸潤性に拡がり、腫瘍境界は不明瞭となっていますので、局所再発の可能性があります。
コメント: 線維肉腫は非上皮系の悪性腫瘍です。腫瘍細胞が木の根っこのように周囲に拡がり、
触診や肉眼的範囲をはるかに超えた形態で発生します。
よく知られているものでは、猫のワクチン誘発性線維肉腫、G・レトリバーの口腔内高分化型線維肉腫があります。 大きく切除しても再発率が高い非常に嫌な腫瘍です。
ラブちゃんもこの理由から局所再発の可能性は高いと思われます。
予想外の悪い結果で、私自身が戸惑っていますが、抜糸が終わった現在のところ術部は良好であり、この腫瘍は進行が比較的ゆっくりなので、定期的に検診しながら、QOLが維持できるよう見守りたいと思います。
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