症例: MIX(コーギー×スピッツ) 10歳齢 オス Bw11・5kg ノワ

プロフィール: H20.4月頃から、排便困難で他院に受診。

         会陰ヘルニアによる直腸憩室と言われた。手術は難しいのでできないといわれ、

   その後、9か月間、軽い鎮静下で数十回、糞便の掻き出しを行っていた。1月に入り、自分では出せなくなり、5~6日毎に排便処置を行っている。何とか治癒させたくて、当院に連絡後、来院した。

現症: 一般状態は良好。

  右側会陰部にヘルニアが見られ、ヘルニア内容は直腸憩室で、憩室内に固くなった多量の糞便が貯留している。

レントゲン検査: 会陰ヘルニア内容は糞便が貯留した直腸で、膀胱、前立腺は正常位置。

           巨大結腸は認められない。

血液検査: 全項目で正常範囲内。

治療: 外科的整復術(内閉鎖筋転位術によるヘルニア修復)

 オーナーのMさんはすぐにでも手術をお願いしたいとのことで、明日手術をする予定を組み、

 初診日から入院となりました。

 

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手術日:2月6日

  手術前に直腸内の糞便をできる限り取り除いておきます。

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犬の会陰ヘルニアが起こる原因は、会陰を構成する筋肉群(外肛門括約筋、尾骨筋、肛門挙筋)が脆弱になり、委縮してくるからです。中年以降の未去勢のオス犬に多く見られます。

写真でも、肛門の右下側が膨らんでいます。ここに直腸がヘルニアを起こしているのです。

この手術をする時には、伏臥位(うつ伏せ)に手術台に保定します。

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この姿勢で、まず、去勢(精巣摘出)を行いました。

肛門の横にある肛門嚢の中に細い綿棒を入れ、傷つけないように目印にします。

 

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ヘルニアの直上を大きく切開します。この付近は血管が豊富にあり出血し易い為、止血凝固切開が強力にできるアルゴンプラズマメスを使用しました。

皮膚切開によりヘルニア嚢が開くと、血様ショウ液が溢れ出してきました。

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ヘルニア嚢の内容は多くは写真のように、脆くなった筋肉の間から骨盤内の脂肪が押し出されてきて、各筋肉群や皮下組織と癒着炎症を起こしています。

この癒着を剥がす時にも出血があり、アルゴンで止血しながら作業を進めるのでここで時間を取られます。

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癒着を取り除き、脂肪組織をヘルニア孔内に押し戻し、各筋肉群を確認できるようになりました。

ここでは、ヘルニアの蓋をする内閉鎖筋を坐骨から剥がし始めてるところです。 ノア10.jpg

 

「内閉鎖筋転位術」というのは、委縮してしまった筋肉に代わって坐骨に付着している内閉鎖筋を剥がし反転させ、ヘルニアに蓋をしてしまうというものです。

この時、閉鎖筋を十分剥離しないと、うまくいきません。また、近くに太い動静脈が走っているので注意が必要です。

写真は反転した閉鎖筋と仙結節靭帯に最初の縫合をした場面です。 ノア11.jpg

閉鎖筋は仙結節靭帯と尾骨筋に縫合しました。

これで、かなりしっかりとした蓋ができてきました。 ノア12.jpg  

 

閉鎖筋は最終的に、仙結節靭帯と尾骨筋、外肛門括約筋にも縫合しました。

ちょうど三角形の形で蓋が完成しました。 ノア13.jpg

術部をよく洗浄し、皮下組織、皮膚を縫合、無事に手術を終えました。 ノア14.jpg

この手術の大切なところは、実は術後管理にあります。

肛門の近くの手術創ですから、汚染し易い為、消毒をしっかりする必要があります。

術後数日は、痛みのため「いきみ」が起こりがちですから、鎮痛剤を投与します。

また、下痢をしないよう、また便秘も起こらないよう食事管理も重要です。

この病気は再発率が高いことでもよく知られています。

その意味でも、術後をどう管理するかは非常に重要です。

ノワも術後の管理をしっかりと行えるよう、しばらく入院で頑張っていく予定です。