症例・・・ヨークシャーテリア メス 11歳8ヵ月 Bw2.98kg  アンリ

プロフィール・・・9歳齢時に事情があり 親類から貰い受ける。各種ワクチン予防定期 

          フィラリア予防定期

          食事内容:80%肉類中心の人間食

主訴・・・2月21日(土)(夜間 時間外で来院) 昨夜から嘔吐、 食欲元気廃絶。

     触診にて、腹部緊張(腹部痛が考えられる)

     急性腹症を疑い、レントゲン検査、血液検査を実施した。

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レントゲン検査所見: 肝臓腫大 

             肝臓内に卵円形の放射状陰影が見られた。位置から胆嚢内の不透過性陰影と考えられました。

              消化管内にはループ状に中等量のガス陰影が見られました。

血液検査所見: PCV45.2%  WBC 14700  Glu 79  T-Bil 2.3↗(黄疸) T-Cho 400<

          GOT 1000< GPT1000<  ALP1290 BUN12 Cre1.2  

          Na 143 K 2.9 Cl 120  他項目 正常範囲

 

レントゲン検査、血液検査から重度の肝障害が考えられたので、

追加検査でエコー検査を実施しました。

肝臓: 肝臓は腫大、全体に低エコーで、うっ帯性の肝疾患が考えられました。

 

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胆嚢に異常が見られました。

胆嚢が腫大し短軸像で32.7×35.7㎜でした。胆嚢内には放射状に写る高エコー陰影が見られました。これは粘液嚢腫に一致する所見でした。

 

 

 

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長軸像でも47.9×30.0㎜で大きく腫大し、胆嚢内も短軸像と同様所見が得られました。

 

診断: うっ帯性肝障害及び胆嚢粘液嚢腫が原因する閉塞性黄疸

           

治療プラン:  初期治療→血管の確保、継続静脈点滴(抗生物質、強肝剤、複合ビタミン剤)

                 制吐剤、利胆剤、

   閉塞性黄疸が内科的治療で改善できなければ、外科的治療の選択が迫られることを飼い主のKさんに説明しました。

胆嚢粘液嚢腫は破裂する可能性の高い胆嚢疾患です。破裂すれば、早期に激しい腹膜炎を起こし、致命的になります。

ちょっとお腹をこわした位に考えていたKさんは、予想以上の状態に強い困惑を示しました。

 

 

 

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入院による継続点滴には同意していただき、早速開始しました。

翌日(2日目)の

血液検査所見: PCV45.1% WBC 23300 ↑ T-Bil 6.1 ↑

          GOT 518 GPT1000く ALP 3000く

となり、黄疸は更に進行していました。

 

この日の夕方、ご家族が見え、面会と今後の方針について、相談しました。

ご家族の意見・・・もし、このまま悪化して弱っていくなら、家に連れて帰りたい。入院したことがないので、ケージの中で可愛そうな思いをさせたくない。今の段階で、外科手術は受け入れられない。

私の意見・・・最終的な選択はご家族に委ねるが、内科的な治療で閉塞が改善した経験もある。

       結果はともかく、内科的に最善な方法を選ぶなら、静脈ルートで時間をかけての点滴と投薬がベストである。ご家族のお気持ちもわかるが、アンリの苦痛を取り除けるよう努力することを優先すべきだと思う。少なくとも数日は頑張ってみたらどうか。

充分な時間を使って話し合い、その後の入院による治療に同意していただきました。

3日目(点滴継続)

総胆管開口部の十二指腸に起こっているだろう炎症の治療目的で、副腎皮質Hを治療に加えました。

更に、この日の朝にも嘔吐があったので、

嘔吐に今、最も効果があると云われる CERENIA(日本未発売)という制吐剤を使用しました。

 

血液検査所見: PCV47.6% WBC23000 Glu 67  T-Bil 3.0

                       GOT 138 GPT 1000< ALP 3000<

T-Bilが下がり始めました。

CERENIA使用後は嘔吐は止まっています。

アンリの辛そうな様子がなくなり、眼が輝き始めました。

療法食 i/d をスプーン1杯口にしました。

 

 

 

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4日目

血液検査所見: PCV46.6% WBC 27400 Glu 93 T-Bil 0.7

           GOT83  GPT1000< ALP 1500

食欲↑(i/dを欲しがる) ケージから出たがり、よく吠えるようになる

血液検査、臨床症状から胆道閉塞が改善されたようでした。

 

飼い主のKさんのご希望もあり、4日目に退院としました。

本日、継続治療の為、診察に来院しましたが、食欲元気とも更に回復しています。

 

アンリは、今まで主食が人間食の肉類でした。この生活習慣が、胆嚢疾患を作り出す要因になる可能性があります。

胆嚢粘液嚢腫は消えてしまった訳ではありません。できうれば、危険を回避する意味でも胆嚢切除が好ましいのです。

再発しないよう今後も治療と、適切な食事管理が非常に大切です。